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電磁波から逃れることができるか？
１．はじめに

最近、電磁波（電磁界）が生体へ及ぼす影響について問題視されることが多くなった。電磁波は文明の利器であり、人類全体の貴重な資源でもある。電磁波も石油と同じく扱い方に注意すれば影響が少ない資源なのである。そのため、家電製品から漏れる不要な電磁波や無線装置、携帯電話などから発射される電磁波に関しては総務省の電波防護標準規格および電波法により、また、家電製品については他に経済産業省の電気用品安全法技術基準により、人体に影響がないように基準値以下に規制されている。

花粉症のように「電磁波過敏症」と言う症状もあると聞く。しかし、医学的にはまだ認知されてはいない。このような電磁波過敏症と称する人達にとっては、いくら基準値以下の電磁波だと言ったところで影響をなくすことはできないであろう。ただ、電磁波以外にも人体に影響を与えるものが多々あるこを知っていて欲しい。

例えば、食品添加物（防腐剤や着色料など）、残留農薬、環境ホルモン、空気や水の汚染（ダイオキシンなど）、薬害（麻薬や覚醒剤を含む）、自動車公害、シックハウス、産業廃棄物やオゾン層の破壊による紫外線の悪影響、酸性雨、遺伝子改造食品類、食物連鎖による水銀などの濃縮、タバコを吸うことによる健康被害やアスベスト（石綿）公害・・・等々である。
電磁波が人体に影響があるか無いかは別にして、ここでは電磁波から逃れる方法があるかどうかを検討してみる。
（注）電磁波または電磁界
電界磁界波のことを電磁波、電波、電磁界と呼んでいる。いずれも周波数帯にもよるが同義語である。また、送信機から発射される電磁波のエネルギーは、放射電磁界（通信に利用）、誘導電磁界（距離の二乗に反比例するため通信に使えない）、静電界（静電気のことで通常はアースで放電する）の三種類から成っている。送信機やアンテナの近傍ではこの三種類が存在する。
（参考）
電気物理などでは「大きさと方向がある量」をベクトル(Vector)量（線）、「大きさだけで方向が無い量」をスカラ(Scalar)量（点）と定義している。インターネットで波動方程式（音波、電磁波、量子力学）を検索して参考にされたい。私の場合はマクスウェル(Maxwell)の電磁方程式以外は詳しくない。
２．地上無線系

さて、地球上から電磁波をなくすためには電磁波の発生源を止めなければならない。そのためには世界中の放送局や無線送信所の電波の発射を全て止める必要がある。日本国だけが電波の発射を止めても電離層の反射によって隣国（海外）からの電波が到来するからである。放送局も携帯電話の基地局も船舶や飛行機、列車、自動車などの移動体通信、業務用無線局などの電波の発射を止めることができれば理想的である。しかし、これは実現不可能なことであろう。

例えば、日本国内を取ってみても日本政府の権限で止めることができる範囲外の施設が存在する。在日米軍基地の通信施設がそれである。アメリカ軍は電波の発射を止めてくれるだろうか。戦車、航空母艦や潜水艦、戦艦、戦闘機や爆撃機などの通信を止めなさいとは言えない。在日米軍の通信基地はメガワット級の大電力送信設備を持っている。

日本国が全ての電波の発射を中止したとしても、アメリカのＶＯＡ（Voice of America：アメリカの声）やイギリスのＢＢＣ（British Broadcasting Corporation：英国放送協会）などは各国に放送局や中継局を持っているし、ロシア、朝鮮民主主義人民共和国及び中国なども強力な放送局を所有している。
万が一、地上（地球上）の電磁波の発射が全て中止されたと仮定しよう。

しかし、送電設備や家電製品が残っている。発電所の送電を全て停止しなければ高圧送電線からの電磁界が問題となろう。また、家電製品（ＴＶ、電子レンジ、電磁調理器、電気毛布、コードレス電話、照明器具など）から出る基準値以下の値とは言え、不要な電磁波が残っているのでは効果が薄い。

それに自動車だって弱いが不要な電磁波を出しているのである（電子噴射制御装置、ワイバーモーター、発電機、セルモーター、ラジオやカーナビなど）。従って、発電所からの送電中止、家電製品の不使用、自動車の廃止をしなければならないことになる。これでは現在の文明社会が成り立たない。それでも地上から電磁波が一掃されたと仮定しよう。
３．衛星無線系

例え、地上から電磁波が一掃されたとしても、宇宙空間からも電磁波が到来している。人工衛星から地球に向けてあらゆる形式の電磁波が発射されているのである。超短波帯からマイクロ波帯までの電磁波が地上に降りそそいでいる。

放送衛星、通信衛星、気象衛星、カーナビ（ＧＰＳ:Global Positioning System：全地球測位システム）、軍事衛星、科学技術衛星、資源探査衛星、宇宙ステーションやスペースシャトルなどからの電磁波が地球に向けて発射されている。したがって、地上のどこに居ても電磁波からは逃れられないことになる。地球上どこに居ても位置がわかるＧＰＳや地上の何処からでも電話がかけられる衛星携帯電話を利用できるのは人工衛星のお陰なのである。

それでも衛星からの電磁波を全て停止できたと仮定しよう。

地上無線系からも衛星無線系からも電磁波を一掃できたとしても、さらに問題がある。太陽からの電磁波である。太陽からは様々な波長の電磁波が放射されている。地球まで到来しているもので良く知られている電磁波に紫外線がある。これは大気で減衰するが一部は地上に到来している。

強い紫外線を浴びると皮膚ガンや白内障になりやすいと言われているが、これを防ぐには日傘や白い服装、ＵＶ（Ultra-Violet）カット用品を用いることで防げるがフロンガスなどでオゾンホールが大きくなれば紫外線も強くなり、人間以外に動物や植物への影響も大きくなる。

光は電磁波の一種である。波長の長いものが電磁波として通信などで使用できる。波長の短い電磁波は光となり、赤外線や紫外線、エックス線やガンマ線などになるのである。光の領域に入ると反射板で反射可能となり、可視光線領域（人間の目に光として感知できる電磁波。波長範囲が400ナノメートルから800ナノメートル程度のもの）では白色や黒色、赤色などの紙や布などでも防ぐことが可能となる。
しかし、波長の長い電磁波となれば金属（導電性の物質）などで遮蔽しないと防げない。静電界は金属で静電遮蔽（shield）ができる。磁界（磁力線）は鉄（Fe）板で電磁遮蔽（シールド）ができる。放射線は鉛が遮蔽に有効であることは良く知られている。
４．電磁波から逃れるには

以上、いろいろと述べてきたが、地球上から電磁波を無くすということは不可能であることが分かった。高度情報化社会は電磁波を抜きにして成り立たないからである。では、電磁波が存在する環境でどうすれば電磁波の影響から逃れることが可能となるのであろうか。
  1. 電波暗室を建築して、その中で生活する。建築費用は数千万円となろう。電波暗室の中には外部からの電磁波が侵入しないからである。しかし、その中で照明を使用するにしても、家電製品を使用するにしても全て電磁遮蔽をする必要がある。
  2. 地下室を掘って、その中で生活する。鉄筋で地下室を作り、出入口や通気口には電磁波が進入しないような設備をする。ただし、地中に埋設されている高圧線が付近に無いことが前提となる。それ以外は古い防空壕やトンネルなども使えると思う。
  3. 水中生活をする。１０ｍ以上の水深で水中生活できるドームを建築する。電磁波は10ｍ以上の水深まで到達しないからである。
  4. 宇宙服のように電磁シールド可能な服装をして生活する。身体を磁気シールド可能な材質で作られた衣類などを着ることで電磁波から身を守る。
  5. 健康な身体を作る。食生活に気をつけ、適度な運動をし、生活習慣病を避けて丈夫な身体をつくることが電磁波に対して抵抗力を付ける事になる。有機栽培の食品や汚染されていない飲料水、清浄な空気、緑の多い環境、森林浴、ストレスの少ない生活をして、電磁波に負けない身体を作ることが大切である。
しかしながら、第5項（健康な身体）以外は現実離れしているから実行不可能であろう。だとすれば電波防護グッズの利用も考えられるがほとんど効果が無いと思ったほうが無難であると考えている。別に関連業者の方の妨害をする気は毛頭無いのであらかじめ断っておく。通常の生活では地球上どこに住んでも電磁波からは逃れることができないのである。
５．おわりに

結論として、地球上では電磁波から逃げることができないと言うことがわかった。しかし、江戸時代には人工的な電磁波は無かった（太陽からの宇宙線・電磁波、空電はあった）にもかかわらず寿命は平均50歳程度であったという。人工的な電磁波が存在する現在の平均寿命は７０〜８０歳代となっている。この現実はどう考えたらよいのであろうか？

私が思うには電磁波が有っても「食生活の改善や住環境の向上、医療技術の向上」が寿命を長くしているのだと思っている。江戸時代には食品公害や空気や水の汚染はなかっただろうし、人工的な電磁波は存在しなかったにもかかわらず短命であったのである。皆さんはどのように判断しますか？　現在の人達は生まれつき電磁波環境に適応しているからなのだろうか？

繰り返すが、人間の健康に悪い影響を与えているものに、自動車の排気ガス、薬害、エイズ、環境に存在する発ガン物質（ダイオキシンなど）、ダイエット食品による肝臓障害、喫煙による各種ガン、アスベスト（石綿）公害、水道水の汚染（トリハロメタンなど）等が知られている。最近では、海外でSARS（Severe Acute Respiratory Syndrome：新型肺炎：サーズ／重症急性呼吸器症候群）感染のために多くの死者が出ている。このような事と基準値以下の電磁波を浴びるのとどちらが人体に悪影響を与えるのだろうか？

いずれにせよ、電磁波だけを特定しての「悪玉扱い」には納得できない。他の条件も含めての総合的な判断をしていただきたいものだと思っている。（了）　April,30th,2003.